妊婦
ジャスミンの視点
二時間も立ちっぱなしで足が痛い。しかも会議はまだまだ終わりそうにない。
この秘書の仕事を二年もしているのだから、もう慣れているはずなのに。チャドは私たちが付き合い始めてすぐに、彼のコネでこの仕事を見つけてくれた。
この会社は市内で二番目に大きい。チャドの会社が一番大きいけど、彼は私が同じ会社で働くことを望まなかった。仕事とプライベートを混ぜると良くない噂が立つと言っていた。
そういう理由で、彼はアメリアにその仕事を提供し、私にはここの仕事を見つけてくれた。当時は、彼がアメリアと一緒に働くことに問題を感じなかった。彼女を命を懸けて信頼していたから。今となっては、そんな自分がバカみたい。
「ジャスミン？」
顔を上げると、会議が終わっていることに気づく。ホールは半分空になっていて、上司のローガンさんが私の前に立っている。どうやら彼が出ようとしているドアの前に私が立っているようだ。
でも、ここには二つドアがあるのに、彼はわざわざこのドアを選んだ。まあいい、彼は上司なのだから。
「すみません」私はお辞儀をして、道を開ける。彼は鼻を鳴らして出て行く。
彼はチャドと同じくらいの年齢で、同じように傲慢だ。二人は同級生で、ビジネス上の友人だから、似た特徴を持っているのも納得だ。
私たちは彼のオフィスに向かい、彼は席に座り込み、私はファイルを彼の机に置く。
「こちらが潜在的な投資家のリストです。ご要望通りに」
「よし」
私は頷き、頭を下げる。「失礼します…」
「チャドと別れたって聞いたよ」彼が割り込んできて、私は一瞬凍りつく。
熱い涙が目に溜まり、心の傷を思い出す。あの事件から一ヶ月が経った。
見知らぬ男との過ちを忘れようとし、チャドとの壊れた関係を修復することに集中していた。彼を許す気持ちもあった。それほど必死だった。
何百ものメッセージを送ったけど、どれも届かなかった。すべてのSNSでブロックされていた。彼は別のアパートに引っ越し、私は会いに行くこともできなかった。アメリアも私たちのアパートに戻ってこなかった。服を取りに来ることすらなかった。彼女も電話に出ない。二人とも私の存在を無視することにしたんだ。この一ヶ月、毎晩泣きながら眠った。彼らを許したいと思うなんて、狂っているかもしれない。でも、彼らに怒り続けることが私を蝕んでいる。ただ彼らに人生に戻ってきてほしい。それだけなのに…
それでも、これは私のプライベートな問題だ。上司にはこんな侮辱的な態度で話し合う権利はない。
「今は空いてる？」彼がまた尋ねる。
何を言っているのかわからず、彼を見る。「どういう意味ですか？」
「おバカなふりをするな、ジャスミン。一年前から私がお前を狙っていたのは知っているだろう。でもチャドと付き合っているからと断っていたな。で、彼にフラれた今、空いてるのか？」
涙が込み上げてきて、それを抑えようと必死に震える。「彼は…私を…フッたわけじゃ…」
「本当にそう思ってる？」上司はニヤリと笑い、テーブルに携帯を投げる。私の手の届くところに。「じゃあなぜ彼は今日、別の女と結婚するんだ？」
「な、何ですって？」その知らせに血の気が引く。電話を取るのが怖いけど、これが冗談でないことを確かめたい。
「自分で見てみろよ」上司は嘲笑いながら言う。私は電話を手に取り、チャドから上司への結婚式の招待状を見る。
彼は今日…アメリアと結婚する？！
「お前はバカな女だな、ジャスミン」上司は笑い、腕時計を確認する。「今頃、彼は誓いを立てようとしているだろう。そして、お前は何も知らない」
「失礼します！」彼の言葉が終わる前に私はオフィスを飛び出す。デスクからバッグを掴み、建物から飛び出した。焦ってタクシーを止め、会場に直行する。それはプライベートな建物で、チャドの家族が所有するものだ。
到着して降り、建物に向かう。正面玄関には警備員がいて、ドアノブに触れる前に私を止める。
「すみません、お嬢さん。入ることはできません。招待リストにお名前がありません」彼らの一人が恐ろしいしわがれ声で言う。
「わかってます。でもアメリアは私の親友で、チャドは…」
「アメリアさんから特別にあなたを入れないようにという指示がありました。申し訳ありませんが、お帰りください」
その言葉で私の心は粉々に砕ける。アメリア…私を中に入れないよう命令した？まず、彼女は私の彼氏を奪い、そして今、私をゴミのように扱う？
彼女がどうしてそんなに意地悪になれるの？私は彼女に何をしたというの？私がしてきたことといえば、姉妹のように彼女を愛することだけなのに。
歩道に向かって歩き始めるけど、激しく泣いていて呼吸が辛い。そして突然、頭の中で狂ったように回転する感覚があり、足元がふらつき、最後に覚えているのは、体が地面に激しく衝突したことだけ。
ビープ音で目を覚まし、すぐに病院にいることがわかる。体が少し痛み、どうやってここに来たのか混乱している。
私に何が起きたの？最後に覚えているのは、涙を流しながら会場を去ったこと…そして頭の中の狂った回転効果。こめかみと腕の軽い痛みが、地面にどれだけ強く打ちつけたかを思い出させる。
じゃあ、誰が私をここに連れてきたの？
その合図のように、ドアが開き、黒いイタリアンスーツを着た男が入ってくる。彼を認識するのに一分かかる。
「ジェイソン…」私は息を呑む。彼はチャドの親友だ。「ここで何してるの？」
「やあ、ジャスミン。大丈夫そうで良かった。心配してたんだ」彼はポケットに手を入れて微笑む。
彼の言葉を理解しようとして、気づく。「あなたが…私をここに連れてきたの？」彼の服装を見て、今わかる。完璧な新郎付添人の服装だ。私をここに連れてくるために結婚式を抜け出したの？
「ああ。幸運にも、会場の外で君が気絶するのを見たんだ。君、そこで何をしていたの？そこに現れるべきじゃないって分かってるはずだろう」
また涙が溢れ出す。「彼は私の親友と結婚するの。二人ともどうしてそんなに残酷になれるの？」
「分からないけど、自分を取り戻さないと。前に進む必要があるよ」
「どうやって！」
「それは自分で見つけるしかない。君のために。君の子供のために。医師によると、妊娠数週間だそうだ」
彼の言葉が時限爆弾のように私の中で爆発する。文字通り震えて、言葉を失う。手がお腹に行き、優しくこする。
「私…妊娠してるの？」
「ああ。そうだ。だから新しい人生を始める必要がある。この街を、このパックを離れることもできる。どこか別の場所へ。君の新しい生活のための資金は私が面倒を見る。何が必要でも…」
「なぜ？なぜそんな面倒を見てくれるの？チャドの人生から私を完全に排除したいの？この妊娠で彼を台無しにしようとしていると思ってるの？」
「いや、違う。はっきり言っておくが、チャドは私の親友だけど、彼が君をどう扱ったかには同意できない。そして今、君を助けるために骨を折るつもりなのは、ただその子が彼の子だからだ。私はその子のことをとても楽しみにしていて、大叔父の役割を果たしたいんだ」
彼の言葉を吸収するのに一分かかるが、正直そうに聞こえる。少し不安が和らぐ。
「それは彼の子供だよね？」彼はとても鋭い口調で付け加え、それが私に再考を強いる。
「もちろん…」私は一時停止し、あの見知らぬ男との夜の記憶が頭に流れ込む。ミケランジェロ。彼が引き離れたのを覚えていない。つまり、彼は私の中で…ということは…
ああ、女神様。パニックが顔を駆け巡る。
「何か問題でも？」ジェイソンが心配そうに尋ねる。
ミケランジェロのことや、私たちが共有した夜のことは言えない。彼自身が言ったように、この子がチャドのものだと思うから助けてくれるのだ。
それを失うわけにはいかない。すでに多くを失った。今持っている唯一の命綱を失うわけにはいかない。
「大丈夫。そう、彼の子よ」それは必要な嘘だと自分に言い聞かせる、あまり罪悪感を感じないように。
「よかった。私のプライベートジェットで出発できる。ニューヨークへ。すでにアパートも仕事も用意してある。君がいつ出発したいか教えてくれればいい」
深呼吸して、私は口にある言葉を言う。「今夜」