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第375話

イーヴァンダー

こんな明るく晴れた日に走りに出ることは普段ないのだが、市街地の向こうに広がる森の一角は、照りつける暑さから逃れられる日陰の恵みだ。私は狐の姿でニュートラルゾーンへと駆け戻る。

狐の姿に変身できたのは久しぶりだ。イーストニアではこれをよくやれるわけではない。私と母だけが狐なのだ。私の知る限り、私たち以外もういない。三人の兄弟と二人の姉妹は変身能力を持っていない。持っていたなら幼少期に現れていたはずだ。

狐は生まれた時から姿を変えられる。少なくとも母はそう考えている。私は二歳の時から変身できた。狼の能力は後から、ほとんどの狼シフターと同じように、十代後半になってから現れた。ど...