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第53話

エマ

ハドリアンが去った瞬間、空気が変わり始める。雲が沈みゆく太陽を覆い隠す。親たちは子供を連れて祭りから離れ、商人たちは店を閉める。日が暮れ、まもなく血の月が昇るだろう。

私はハドリアンに反論したかったが、彼は拒否を受け入れなかった。今、私は街の通りを歩いて宮殿へ戻る途中だ。

カップルがキスをしている。実際、複数のカップルが。彼らは壁に寄りかかったり、あらゆるベンチを占拠したりしている。なんて奇妙なことだろう。

「あの、エマ様」マイルズが後ろから呼びかける。

振り返ると、私の護衛たちがいた。カラムはいつものように眉をひそめている。マイルズは居心地悪そうな表情を浮かべている。「宮...