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第119話

ハドリアン

エマは大きな湯気の立つスープの鉢を私の前に置く。トマトとニンニク、バジルの香りは本来なら豊かで食欲をそそるはずだが、代わりに香りは鈍い。かがんで息を吸い込むが、鼻の詰まりが匂いをろ過してしまう。

「風邪のせいよ、気道が塞がっているから」エマはテーブルにチーズをのせたパンを置きながら説明する。

「寒くはない」エマの香りまでもが薄れていることに気づき、顔をしかめる。「これは好きじゃない」

エマはグラシエラにスープの鉢を渡しながらくすりと笑う。グラシエラは緊張した様子でエマに感謝の意を示す。エマは王女のように扱われたくないことを私は知っている。しかし、グラシエラが将来のルナを認識...