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第92話

「美しきものも、邪悪なものも、私にも声がある。そして私の言葉は決して沈黙させられない」― ジョセフ・コンラッド

オデッサ

手入れの行き届いた指が、私のソウルメイトの黒くて絹のような髪に触れる。恐ろしいほど美しい彼の、いつもとは違う姿を目の当たりにしている。至福と平穏の姿だ。彼の鼻は私の匂いを静かに吸い込むたびに、優しく膨らむ。彼の部屋で共有しているベッドは、このブランケットの下で穏やかな余燼のように暖かい。背後でエアコンがうなる中、七月なのか十二月なのか区別がつかない。

素晴らしい感覚だ。

伴侶を愛でながら、私の心は回想し、ダリエンの姿をネロンへと変えていく。彼と私はこのよ...