第4話
キング
アリッサ・ベネットが私に連絡してくるとは思いもしなかった。彼女がそこまで追い詰められていたなんて、きっとあのクソ旦那にやっと愛想が尽きたんだろう。
バイク以外の乗り物を運転するのはしばらくぶりだが、彼女から電話があった時、ガレージで眠っていたトラックを引っ張り出した。
道路脇の赤い車の横に停車すると、地平線に夕日が沈み始めていた。アリッサはすぐに運転席から飛び出して後部に急ぐ。まずはおむつバッグ、次にチャイルドシートを取り出した。
目を細めて、ちゃんと見えているか確認する。
ああ、マジでチャイルドシートだ。
トラックから降りて、バッグを持つのを手伝おうと申し出る。彼女が私の後部座席にチャイルドシートを固定するのを見守る。何が来るのか予想してなかったが、ピンクの肌着を着て小さな声を出している本物の赤ん坊ではなかった。
たぶん姪っ子か何かだろう、と静かに考える。
アリッサと最後に会ってから3年経つが、彼女は本当に大人になった。それが良い方向なのか悪い方向なのかはわからない。疲れ果てた様子で、まるで命がけで戦ってきたようだ。
そして直感的に、彼女はそうだったんだろうと感じる。
彼女は黒いパーカーとジーンズを着ている。濃い巻き毛はぐちゃぐちゃに束ねられ、はみ出した髪が顔を縁取っている。ヘーゼル色の瞳の下には隈がある。そして俺が観察力のある野郎でなければ、頬に塗られた化粧の下にある紫色のあざを隠しているのに気づかなかっただろう。
その光景に血が沸騰する。グレイの言うことを聞くべきじゃなかった、ずっと前に彼女を救えたはずだ。彼女が自分から出てこなかったとしても、あのクソ野郎を殺して連れ戻せばよかった。
アリッサは助手席に飛び乗り、素早くシートベルトを締める。膝が神経質に揺れ、私が席に戻る間も彼女は唇を噛んでいる。
「もう出発できる？」緊張感のある声で彼女は尋ねる。
「車を道端に捨てる理由でもあるのか？」俺は眉を上げて聞く。
もう少し追及すれば、彼女は何が起きているのか正直に話すかもしれない。彼女の家に寄り道して、問題を片付けることもできる。どうせここ数日は暴力を振るっていないしな。
「動かないの」と彼女は答えるが、その口調に不安の色が混じっているのを見逃さない。
「ブースターケーブルが後ろにある。俺が—」
「エンジンが壊れてるの、バッテリーじゃなくて」彼女は慌てて遮る。
「レッカー車を呼んだ方がいいか？」と尋ねると、彼女が刻一刻と落ち着きをなくしていくのがわかる。
ああ、完全に嘘をついてるな。
「大丈夫よ。アイザックが帰ってきたら引き取ると言ってるから」彼女の口から嘘が滑らかに流れ出る。
「彼に電話して確認する？」
「ううん、大丈夫」彼女の焦りがより明らかになってきたが、冷静な態度を保とうとしているのがわかる。
俺はその努力に薄笑いを浮かべる。「急いでるのか、キトゥン？」
彼女は答えず、ヘーゼル色の瞮で黙って懇願している。普段なら彼女をからかうのを楽しむところだが、それは後回しにしよう。彼女が俺の家で安全になってからだ。
ハイウェイに戻り、彼女と後部座席のチャイルドシートを交互に見る。
咳払いをして、「で、その子は誰？」と何気なく尋ねる。
「ズリよ」と彼女は小声で言う。
「そして彼女は—」
「私の娘」
面白い。グレイが彼女に赤ちゃんがいるなんて何も言わなかった気がする。実際、彼らは月に一度くらいしか話さないはずだ。そして電話は通常5分以下だ。
グレイのケツを蹴飛ばしてやりたい。それこそが彼が必要としていた最大の警告サインだったはずだ。
「何歳？」感情を抑えながら尋ねる。
「7ヶ月よ」
俺は小さな餓鬼どもが嫌いだ—自分に子供ができるなんて想像したこともない—それでも嫉妬と怒りが表面下で沸騰している。アイザック・カーターは彼女を抱いた最初の男で、子種を植え付けた男だ。ラッキーな野郎め。それは俺のはずだった。だがニコと俺は10代の頃に約束した：二人とも彼女を好きだから、どちらも彼女を手に入れることはできないと。
「お前に似てるな。お前の巻き毛を受け継いでる」
アリッサは弱々しく微笑む。「ええ、そうね」
運転しながら、目の端で彼女がサイドミラーに目を走らせ、夫が追ってこないか確認しているのがわかる。彼女の肩の緊張は、捨てた車から距離を置くにつれてゆっくりと和らいでいく。
ついに彼女は視線を俺に向ける。そう、あるべき場所に。「で、グレイはどこ？彼がまだ電話をくれないなんて驚きだわ」
俺は鼻を鳴らす。「最近あいつをあまり見てない。でもクラブのことだからな—いつも何かしら起きてる。すぐに電話すると思うぜ」
俺の兄貴は自分の問題を抱えてるのは知ってる。でも彼が誰かを始末するように指示してきたら、俺は何の疑問も持たずにやる。それが俺の仕事だし、クソほど楽しんでる。
アリッサは鼻で笑う。「『ギャング』って発音を間違えてるんじゃない？正直に言って、あれはギャングよ」
彼女の口調に軽蔑を感じるが、俺たちがなぜそうしなければならないのか、彼女には全く分かっていない。そういうものだ。グレイは彼女を無知な子猫のままにしておきたかったし、俺はこれまでそのことで彼と議論する時間もクソほどのエネルギーもなかった。
今まではな。実際、その話題はすぐに持ち上がるだろう。
「ターゲットに立ち寄ってもいい？いくつか必要なものがあるの」アリッサは再び声に緊張を滲ませて尋ねる。
「いいぞ」最寄りのターゲットに入り、いつもクソほど混んでるから駐車場の真ん中あたりに停める。アリッサはすぐにトラックから飛び出したが、ドアを閉める前に俺は叫ぶ。「何か忘れてないか？」
彼女は眉をひそめる。「何を？」
俺はチャイルドシートを指差し、胸に不安が広がる。「子供をここに置いていくのか？」
「ええ、ズリは寝てるわ」と彼女は名前を強調する。「すぐ戻るから。彼女がどれだけ長く寝続けるか驚くわよ」
彼女が店に駆け込むのを見つめながら、俺は一人彼女の餓鬼と取り残され、どうしていいかまったくわからない。
アリッサが店に入ってわずか数分後、ズリは泣き始める。
クソ。たぶん無視して放っておけば、いずれ泣き疲れて寝るだろう。
泣き声はすぐに大きく、より要求の強いものになる。
クソったれ。わかったよ。
しぶしぶ後ろに手を伸ばし、拘束具を外すのに苦労してから彼女をシートから引き出す。顔をしかめながら、ぎこちなく彼女を腕に抱えると、彼女はすぐに泣き止み、俺の胸にすり寄る。
なんてこった、これは嫌だ。なぜ彼女は一緒に連れていかなかったんだ？
餓鬼が俺を見上げると、彼女の目がアリッサと同じだと気づく。ああ、間違いなく彼女の子供だ。そして残念ながらアイザックのDNAも混じっている。
彼女の小さな指が俺のシャツを掴み、胸に何かが走る。たぶん先ほど食べた巨大バーガーが動脈を詰まらせてるんだろう。何であれ、それを脇に押しやり、危険がないか駐車場を見回す。
また小さな声が俺の注意を引き、俺は彼女に向かって眉をひそめる。「いいか、餓鬼。俺たちは仲良くやれるが、邪魔はするなよ。お前の母親と俺には今夜片付ける未完の仕事があるんだ」
彼女は喃語で応える。
「いいぞ。互いを理解できて良かった」