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第50話

アノーラ

クインがドアを閉めた瞬間、私は医療用品の入ったバッグをベッドに置いた。紹介する時間がなかったので、自己紹介して緊張をほぐそうと決めた。彼女が安全だと理解してくれれば、会話ができるようになるかもしれない。

医師としては、彼女を病院に連れて行きたい。もし彼女が強姦されたなら、レイプキットの検査と警察への報告が必要だ。今はできることをして、その後より詳しい検査のために病院に行くよう説得しよう。

「私の名前はアノーラよ」

彼女は頭を回して私を見た。青い目の曇った表情が一瞬晴れ、涙が頬を伝い落ちた。驚いたのは、私が名前を告げた時に彼女の目に浮かんだ認識の色だった。クインが私...