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209。「たくさん見逃した?」

背後から近づいたエイブラハムが、親指で私の腰をなぞり、唇の端にキスを落とす――彼が本当に望んだ場所ではないけれど、公の場での節度を保ちつつ、その衝動を満足させるには十分なキス。

軽い感触。でも、さりげない触れ合いと呼ぶには少しだけ長く、私の顔に笑みがこぼれる。彼にしか引き出せない、特別な微笑みだ。愛情のしるしとしてだけでなく、所有の証として彼の唇を間近に感じることへの、ささやかな満足感。その感覚が、胃の奥からこみあげてくる高揚感に変わる。

「何か見逃したかな?」エイブラハムが、低く、危険なほど穏やかな声で尋ねる。

ほんの少しだけ首を巡らせ、流し目で彼を見る。まったく、この人はいつも通り、たまら...