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第71話

「ありがとう」と私はささやいた。彼は短く、驚いたような笑みを浮かべた。まるで私が彼に感謝するなんて意外だというように。

なぜ感謝しないことがあるだろう?

私の抵抗や、行きたくない、彼と暮らしたくないという思いにもかかわらず、体中の細胞が彼についていくよう叫んでいた。もちろん彼と行きたかった。彼は私の人生の愛だった。

そして彼は、惨めな境遇から私を救い出してくれたのだ。フェリックスはいつも、私が気づく前に私の必要としているものを知っていた。

彼は私側の車のドアを開け、手を差し伸べた。

フェリックスの手、感情の渦巻く海の中で私を支える錨のような存在は、引っ込める前にほんの一瞬だけ私の手に...