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第31章 みんな楽にはならない

木戸哲也は実家を出た後、顔から笑みが消え失せていた。

自分がただの道具でしかないことは分かっていたが、それでも構わなかった。しかし、道具は所詮道具でしかない。木戸達也が現れた瞬間、自分の価値は一瞬で消え去った。

自分の住処には戻らず、いつものバーに向かった。誰かと一緒にいるわけでもなく、ただ一人で酒を飲んでいた。どれだけ飲んだかも覚えていない。

ぼんやりとした意識の中で、女性が近づいてくるのが見えた。

彼女は自分の名前を呼んでいるようだった。木戸哲也は苛立ちを覚え、追い払おうとしたが、顔を上げてみると驚いた。

「千穂ちゃん?」

彼はその名を呼んだ。

篠原友香の気分は最悪だった。...