




第7章 あなたが欲しいもの、私はあげられない
千葉晴美の長いまつげが微かに動き、目の奥には鋭い光が宿っていた。心の中ではすでに答えが出ていた。
「古宮桐也よ」
「古宮桐也って、今の旦那さんじゃない?彼がボスを調べるなんて」
親を裏切る話は聞いたことがあるが、嫁を裏切る話は初めてだ。もう夫婦になったのに、何を調べる必要があるのか。しかし、この古宮桐也という名前、どこかで聞いたことがあるような気がする。
彼は急いで調べてみて、驚きの声を上げた。
「うわっ、ボス、あなたの旦那さん、すごい人じゃないか。あなたにぴったりだよ」
「でも…去年の事故以来、会社のことにはあまり関わっていないらしい。でも彼の名声は南山市で揺るぎないもので、誰も挑戦しようとしない」
「無駄話はやめて、要点を言って。時間がないの」
千葉晴美は苛立ちを隠さずに賀川令の話を遮った。
「えっと…彼に調べられないようにするか、それともどうするか?」
「調べられないのは逆に怪しまれる。だから、全部は教えずに、私が医術を持っていることだけは正直に伝えて。将来、役に立つかもしれない」
古宮桐也が今の地位にいるのは、彼の慎重さのおかげだ。たった30分の接触で、彼はすでに彼女の正体を疑い始めていた。
これから古宮家での生活には、もっと気をつけなければならない。
「わかった。それと、会社の方で最近投資できるプロジェクトがある。メールで送っておいたから、ボスも見てみて」
「自分たちでやれ。最近はあまりオンラインにいられないかもしれない」
「了解、じゃあ切るね」
千葉晴美は通話記録を削除し、書斎を出た。
夕食後、彼女は調合した漢方薬を持って古宮桐也の部屋に入った。
鼻をつく不快な匂いが彼の鼻先に届き、彼は眉をひそめた。
「何だ、この臭いは?」
「これはあなたのために煎じた漢方薬よ。これを飲んで、あとで針治療をするわ。数日後に様子を見ましょう」
古宮桐也はこの女性が自分のことを気にかけていることに少し驚いた。彼の習慣から、本能的に尋ねた。
「君がこんなに治そうとするのは、何か目的があるのか?」
千葉晴美は彼がそんな質問をすることに驚かなかった。漢方薬を彼のベッドサイドテーブルに置き、流れるように答えた。
「今はあなたが私の旦那さんだから。あなたの足が治れば、毎日あなたの世話をしなくて済むし、仕事も楽になる」
「仕事…」彼女がそこまで考えているとは。古宮桐也の唇が微かに上がった。
目を細めて、「私は下半身が麻痺している。君が望むものは与えられない」
「私はそのことは気にしない」彼女は即答した。
彼は少し不機嫌になった。彼女が気にしないのか、それとも彼がその方面でダメだと思っているのか?
「君はただ協力してくれればいい」千葉晴美は地面にしゃがみ、銀針を取り出して消毒し、整然と並べた。動作は一連の流れで行われた。
その時、突然外から誰かが入ってきた。
「兄さん…」
入ってきたのは古宮桐也の妹、古宮玲奈だった。千葉晴美は少し困惑した。どうしてまた一人来たのか。この古宮家には一体何人の娘がいるのだろう。
古宮玲奈は千葉晴美の手にある針を見て、顔色が変わり、急いで千葉晴美を押しのけた。
「この悪毒な女、来たばかりで兄を殺そうとしているのか?」
千葉晴美は不意に押されて地面に倒れた。古宮玲奈は千葉晴美の顔を見て、まるで幽霊を見たかのように口を押さえた。
「なんてこと、おじいちゃんは正気じゃないよね。兄さんが麻痺しているからって、こんなに妥協するなんて」
古宮玲奈は千葉晴美の前に立ち、嫌悪感を示しながら彼女の服を指で引っ張った。
「あなた、何を着ているの?どの時代から来たのかしら?」
この布地、このデザイン、使用人のエプロンの方がまだマシだ。
千葉晴美は眼鏡を押し上げ、その輝く瞳はどこか人を圧倒するものがあった。
古宮玲奈はその目を見て、少し恐怖を感じた。
「な、何よ、その目は。言っておくけど、私はこの家の次女よ。私に対してもっと礼儀をわきまえなさい」