第5章
深夜十一時。学園の敷地の外れ、今はもう使われていない天文台の廃墟に、私は一人立っていた。
腕輪の【隠密機能(ステルス)】が私の魔力と気配を完全に遮断している。月光が、砕け散ったドームの天窓から銀色の筋となって降り注ぎ、埃を舞い上がらせる床に幻想的な模様を描き出していた。だが、その詩的な美しさを味わう余裕など、今の私には微塵もなかった。
【遠隔聴取(リモートリスニング)】機能が、塔の最上階から漏れ聞こえる二つの声を、はっきりと私の耳に届けている。
軋む階段を音もなく上り、螺旋階段の最後の影に身を潜める。そこから覗き見た光景に、私の全身の血が、怒りで逆流するかのようだった。
月光...

Chapters
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章 

6. 第6章 

7. 第7章 

8. 第8章 

9. 第9章 

10. 第10章 


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